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vol.3-2②Blood 蒼ざめた馬の疾駆するがごとく 怒張した肉の塊、境界を超えゆく 阿鼻叫喚、慟哭の声、修羅、血股に溢るる 逃れうるすべなく、 喪われしものの還ることあらざる 時の流れは不可逆なればなり Eroparo of The Twilight 8月も半ばを過ぎた。始めた当初は疲労困憊だったアルバイトにも慣れてきて、元気がありあまってしようがないといった感じだ。 世間がお盆休みに入った火曜日。ぼくは久しぶりにデートをした。ただ、相手は晶良ではなかった。 前の晩。アルバイトを終えて帰宅し、夕食をとって風呂に入った後、ベッドに横になる。目を閉じて、ずっと気にかかっていたことについて、思いをめぐらせていた。だが、いい考えは浮かばない。 (なんとかの考え、休むに似たり、かぁ…。よしっ、会おう。会ってちゃんと話せば、きっと彼女はわかってくれるさ) あまりにも根拠のない自信ではあったが…。行動すること以外、解決策はないように思えた。 (とりあえずいいと思えることからやっていこう。そうすることでしか前に進めないから) ベッドから勢いよく跳ね起きパソコンを立ち上げる。そうして、急で悪いけど、あした会えないかな? とメールした。 返信はすぐにきた。ハイ! という文字が躍っていた。うれしさがにじみ出ている。それを見て、さっきの自信はかなりの部分が崩れ落ちていったが…、もう後戻りはできない。 朝9時に新宿のファストフード店で待ち合わせする。15分前に行ったにもかかわらず、彼女はすでにそこにいた。淡いパープルのキャミワンピを着て、店の前に立っていた。丸見えの白い肩にドキッとする。 「待たせちゃった?」 申し訳なさそうに聞くと、 「いえっ。わたしもいまきたばかりです」 うそだ、と思った。少し日焼けした顔、額の汗がかなりの時間待っていたことを雄弁に語っていた。 「暑いから、店の中で待っててくれればよかったのに」 と言うと、彼女はペロっと舌を出し、右手で拳をつくって自分の頭にコツンと当てながら、 「えへ。カイトさんに久しぶりに会えるんで、うれしくって早起きしちゃいました」 そんな姿を見ていたら、ふっと気が緩んでお腹がぐぅと鳴った。 「さぁ、入ろう。ぼく、お腹すいちゃった」 その場を動こうとせず、俯いて上目遣いでぼくを見るなつめ。 「…」 「? どしたの?」 「あの…、サンドイッチ、つくってきたんです」 「ほんとに? わ~い、なつめって料理上手だから、楽しみ」 つい、笑顔になってしまう。 (いっけないっ、きょうはシリアスな話をするつもりだったのに…) とはいえ、食欲には勝てそうにない。 「でも、ここで食べるわけにはいかないし…」 どうしたものかと思案する。この炎天下に外で食べる気にはとてもならない。 「2人きりになりたい、です」 消え入りそうな声でなつめが言う。はっとする。 「えっ!? それって…」 驚いて聞き返すが、なつめの目がぼくの言葉を遮る。 「2人きりに、なりたい」 ぼくの目を見て、今度ははっきりと言う。 「なつめ…」 「わたし、どこへでもついていきます」 (…う~ん。でも、まあ、ちょうどいいか) 「行こうか」 となつめに言い、手をつなぐ。その手をぎゅっと握り返して、 「はい」 なつめはほんとうにうれしそうに答えた。 (2人きりで話すしかないよね。もう会えないって言うのなんて。そんなの、だれにも見せられないよね) これまで2度入ったラブホテルに向かって歩きながら、ぼくはそんなことを考えていた。 部屋はどこでもよかった。適当に選んでキーを受け取る。こういうところに入るのはもちろん初めてだろう、なつめは黙って下を向いている。素肌の肩に手をかけて、なつめを押すようにエレベーターに乗った。 部屋に入るなりなつめは振り向き、ぼくの胸に飛び込んできた。出鼻をくじかれ焦る。 「なつめ、最初にぼくの話、聞いて」 やさしく諭すように話す。が、 「いやっ! いやです!」 「…」 「あぁ…、好き…、大好き、抱い…て、お願い」 「だめだよ、なつめ。こんなことしてたら、みんな、みんな不幸になっちゃうよぉ」 なつめはさらに力を込めて抱きついてくる。もう、食欲はどこかにいってしまっていた。 「わたしは…、わたしはだれにもしゃべりません!」 少し涙声のなつめ。ぼくは何も言えない。 「カイトさん。あなたは、わたしのこと、彼女に話したんですか?」 「話せるわけ、ないよ!」 思わず大きな声で否定する。 「でしょおぉ。2人の、2人だけの秘密…絶対、だれにもわからないっ」 泣きながら訴えるなつめ。涙とともに濡れた言葉がこぼれ落ちる。 「わたしのこと、嫌いですか?」 「いや…、そういうわけじゃないけど…」 「それなら、それなら…いいじゃないですかっ。わたし、絶対、カイトさんたちのおじゃまはしませんっ」 心を鬼にして、嫌いだ、そういえばよかった。だが、もう遅い。 「わたしから連絡はしませんっ。あなたからの、カイトさんからの呼び出し、それだけを待ってます。だから…、会えたときは…」 「なに?」 声が跳ね上がる。上ずっている。 「抱いて…。わたしを…抱いてっ! わたしのことだけ見てっ!」 ドクン。心臓から大量の血液が血管に送られる。これまで、モテたことはなかった。異性と普通に口をきくのは、ザ・ワールドが初めてだった。触れ合うのは、そのザ・ワールドで知り合った晶良が初めてだった。 ドクン。血液は体温を上げただけではなかった。体の一部に集まりだしてしまったのだ。 「なつめ…」 名前を口にした時点で負けだった。ぼくはなつめの細い体に腕をまわし、きつく、きつく抱きしめた。 「あぁ…」 なつめの漏らす吐息が、ぼくからぼくを引き剥がした。 「…ん…んん…んぅん…」 なつめの唇をむさぼる。やわらかな感触が、ますます血液を1か所に集める。 もう…だめ…だった。 「かわいい、かわいいよ」 耳に熱く語りかけ、それから、彼女を抱き上げてベッドに運ぶ。バイトのおかげか軽々と持ち上げることができた。 顔を上げてベッドを見た瞬間、ぼくの動きは止まった。 (わぁっ…、丸いベッド…回転ベッド…っていうの? こーゆーの) 我に返って周囲を見る。ピンクの、いかにも淫靡な照明が目を刺激する。おまけに壁はすべて鏡張りだ。さらに興奮してしまう。 ゆっくりとなつめをベッドに横たえ覆い被さる。唇をふさぎ、舌を口内深く侵入させ、ねぶりまわす。 「ん~…、んん…、ぅぅん」 服の上から胸を揉みしだくと、なつめが吐息を漏らす。さらに強く揉む。セックスに夢中になる前に、言っておかなければならないことがあった。手の動きを止めて、唇を離す。 「ごめんね。この間はひどいことをして」 「謝らないで…、お願い。それに、ひどいことされたなんて、思ってない」 「なつめ…」 「あなたが気持ちよくなってくれれば、私、それだけで…うれしい」 体を起こし、着ていたTシャツを脱ぐ。履いていたGパンも脱ぐ。ムスコはパンツが破れるんじゃないかというほど、いきりたっていた。 Gパンのポケットに入れていた財布からスキンを取り出し枕の横に置く。 それからなつめの体を起こし、キャミワンピと純白のブラジャーを体から取り去った。形のいい乳房がこぼれる。 「きれいな肌」 そう言って体をかがめ、乳首に唇を寄せる。 「あぁ…」 唇が触れそうになったところで舌を伸ばし嘗めると、 「ぁっ、あんっ」 びくっと体を震わせ、なつめが声をあげる。頂上から山腹にかけて、円を描くように舌を這わせていく。反対側の胸には右手をあてがい、触れるか触れないか微妙な間隔で掌を動かす。 「はぅ…くぅぅ…ん、はぁぁ、くぅん」 「かわいい声、もっと聞かせて」 「あぁ…」 体を支えているだけの力が入らない、そんな感じでなつめが倒れこむ。 のしかかり、唇と舌、両手をフルに使って、やわらかなふくらみを楽しむ。 「ぅんん、くぅぅん、くぅん、はっ…ぁぁあ」 愛撫の仕方を変えると、なつめの音色はさまざまに変化する。 右手が下がっていきパンティの中に潜り込む。 「足、広げて」 乳首を嘗め上げながら言う。なつめは喘ぎながら、 「あ…、は…ぃ」 と小さく返事をし、おずおずと足を広げていく。自由に動けるなった右手は喜々としてターゲットに向かい、そして捕らえた。人差し指を割れ目にあてがい、ゆっくりと挿入していく。 「あひっ、あぅぅ、あっ、ああっ」 「痛い? 怖い? やめる?」 「いやっ、やめない…で。あぁ…、痛く…ない…です」 言葉どおりとは思えない。なつめは目を閉じ、かわいい顔がゆがんでいる。 (きょうはひどいこと、しないようにしよう。やさしくしよう) 「無理しちゃだめだよ。なつめが嫌がることはしないよ」 「あぁ、うれしい…。好き、大好きっ」 パンティから右手を退けて、脱がしにかかる。 「お尻、上げて」 なつめは黙って言うとおりにしてくれる。体をずらし、なつめの両足の間に入る。膝を立たせ、その左右の膝に手を置いて広げていく。 「あぅ…、は、恥ずかしい…ですぅ」 なつめは両掌で顔を覆ってしまう。そんな仕草がますますぼくを興奮させる。左の太腿のちょうど真ん中あたりに、ちゅっと音を出してキス。 「あっ!」 なつめは短く声をあげ、上半身をびくっと震わせた。 舌を伸ばし、唾液で絵を描くように嘗めまわす。秘所にすっと近づき、ゆっくりと遠ざかる。膝の裏に手をやって持ち上げ、のぞき込むようにして裏側に舌を這わす。 「くっ…ぅぅん、ぅんっ、くぅん、あぁぁん」 舌が左足に移る。途中、秘所を横切ったときに、ちょっとだけ下から嘗め上げる。と、 「んあっ! あっ!」 激しい反応。しかし、焦らすように左足の太腿を舌と唇に味わわせる。右足と同じにはせず、唇も使ってあちこち吸った。ちゅっ、ちゅっと音をたてるたび、なつめは敏感にこたえる。 「あっ…あっ…んあっ…あぁっ…あっ!」 再びなつめの両膝を押し広げ、その中心に顔を近寄せる。羞恥に耐えかねて、なつめは両手で自分の秘所を隠してしまった。ぼくはお構いなしに舌を這わし、なつめの指を唾液まみれにしていく。 「はぁぁん、だ…めぇ…、ぅぅん、はぁぁ…、見、な、い、で、ぇ…」 「手、どかして。よく見せて」 言うことをきかないなつめ。よほど恥ずかしいのだろう。ぼくは彼女の手首をつかみ、少しだけ力を入れて最終防衛ラインをやすやすと突破した。 「あっ、だ…めぇ…、ぁぁ…、ぁあ…、ああ…」 息がかかるほどの距離まで顔を寄せ、じっくり観察する。それから、そこに唇を押しつけた。 なつめが反り返る。唇を動かし、舌を差し込むと、 「ぅぁぁああぁ、んあぁっ、あーっ」 これまでとは全然違う声。行為に熱中する。膝を持ち上げていた手に、指に次の指令を発する。それは舌が動きやすくなるよう、「そこ」を広げること。ピンク色の肉がのぞく。 顔を少し横にして、ディープキスをする感じでねっとりと唾液をすり込んでいく。 「ぁあっ! くっ…くぅぅ…んんん、あんっ、…はぁぁぁぁあっ」 喘ぎとともに染み出てくる愛液が、さらにぼくの舌の動きを潤滑する。それをすくい上げ、亀裂の上のほうで硬くしこってきた突起に塗りつけていく。 「ぅあっ! あっ…あ──っ! んぅあぁぁあっ!」 この声が、ぼくから冷静さを剥ぎ取り、性急な行動──挿入に移るきっかけになった。さらに、 「あぅぅっ、あっ! も…ぉ…だめぇ…」 相手は1度の経験しかないことを、すっかり忘れていた。ついこの間、晶良を絶頂に導いたせいで過信していたのかもしれない。 (もう入れてもいいよね) それは自分の都合だった。アルバイトで体力を使っているせいか、性欲処理は4日ほどご無沙汰していた。 そそくさと体を起こし、スキンを手に取る。なにを焦っているのか、うまく袋が破れない。それがさらに焦りを募らせる。やっとこさ、スキンをムスコにかぶせることができた。 「入れるよっ」 一方的な宣言。 「えっ!? …ぁ、ぁ、まだ…、あの…はぃ」 少し驚きつつも、ぼくの意向に逆らわないで受け入れようとするなつめ。 いつもなら、晶良になら…。もう少し、いや、もっとねちっこく。そこだけでなく、いろんなところに。あんなことや、こんなことをするのに…。なつめの表情を見る余裕も失せていた。 ただ、結合部だけをにらんで、あてがう。ムスコをなつめの蜜壷に埋没させていく。 「あぅっ、いっ…」 いい、だと思った。だが、それは「痛い」の「い」だった、「嫌」の「い」でもあった。 一気に奥まで突き入れる。 「あぐ…ぅ、っ…、た…ぃぃ」 (あっ、なつめって1回だけしか経験ないんだった) 遅ればせながら気が付く。 「痛かった? ごめん」 「ぃぇ…、だい…じょうぶ…です」 やめよう、と思う気持ちを押しのけさせたのは、熱い蜜壷の中できつく締めつけられているムスコに対する刺激、快感だった。 「動かすよ? ゆっくり、ね」 「は…はい」 なつめは唇をかみしめ、目をぎゅっと閉じて痛みをこらえている。 腰をそろりと少しだけ引く。なつめごと腰についてくるような感じでムスコは出てこない。 「あぅぅぅ」 なつめのかわいい顔が苦痛にゆがむ。ぼくはさらに腰を引く。ムスコが2センチほど空気に触れる。それを再び押し入れる。 「はぅぁっ! はぅぅっ」 シーツをつかんで引き上げるなつめ。見れば涙が頬を伝って流れ落ちている。 (これは…、やめよう) 「ごめん、ごめんね、なつめ。痛かったよね、ごめん」 痛みが少しでも小さければと願いながら、ぼくはなつめからムスコを抜いた。やっと目を開けたなつめに、もう一度、 「ごめん」 と謝り、やさしく唇を吸った。なつめはつかんでいたシーツから手を離し、ぼくの体に腕をまわして力を込めてくる。また涙がこぼれている。 「わたし…、わたし…、ごめんなさい」 唇を離すと、なつめは申し訳なさそうな顔をして謝る。 「いいんだよ。なつめが謝ることなんかないよ。ぼくが悪いんだ、焦っちゃったから…」 そう言ってからぼくは体を反転し、なつめの横に寝転がる。 (あ~、自己嫌悪…) なつめは体を起こし、ぼくの胸に頭を乗せる。ふんわりとした髪が少しくすぐったい。 ぼんやりとピンク色の天井を眺めていたら、まだ元気なムスコに何かが触れるのを感じた。 「?」 少し顔を持ち上げるが、なつめに遮られてムスコの様子はうかがえない。首がつりそうになるくらい、さらに頭を上げる。 「なつめ」 ようやく見えた。なつめがムスコに指をかけているではないか。ぼくが発した声にも反応はない。じっとムスコを見ている。ややあって、 「かわいそう…。男の人って…出さないとつらいんでしょう?」 「いや…、そんなこともないけど…」 「わたし…、うまくできるか、わかんないけど…」 「えっ?」 首が限界にきて、頭が枕に落ちる。同時になつめが体を下のほうにずらした。なつめは横座りになって、両手でムスコを包み込むように握り、恐る恐るスキンをはずした。 なつめの行為を止めることができなかった。いや、期待が勝っていた。わくわくしていた。 「ん…」 なつめはひざまずき、右手を根本に添え、左手は自分の体を支えるようにベッドについている。なつめがムスコを口の中に収めようとする。唇がまくれ上がり、それがなんともいやらしく見えた。 「は…、はぁ…、気持ち…いぃ」 その言葉をくすぐったそうに聞いて、なつめは一度ムスコを口から出し、 「わたし、頑張ります。もっと、もっと気持ちよくなってください」 ぼくのほうを見ながら言って、再びムスコと対峙した。 「どうすれば気持ちいいか、どんどん言ってくださいね」 手を伸ばせば触れられる距離なのに、なんだかすごく遠くの光景を見ているような錯覚に陥る。 ムスコは膨張しきって、いまにも破裂しそうなほど怒張している。鈴口からは透明な液体がにじんできていた。それを、なつめは舌を伸ばして嘗めた。快感が走る。 「あぅっ」 思わず声が漏れてしまう。パンパンに張って鈍い光沢を放っている亀頭に、なつめが舌を這わせていく。唾液が塗られ、さらに怪しく輝いていく。 (気持ち…いい…) ぼくは、よく見たいという欲求を抑えられなかった。なつめの髪を手でかきあげる。ほんの少し、なつめの頬が赤くなった気がした。 亀頭をあまさず嘗めたなつめは、口を大きく開けムスコを飲み込んでいった。それから、頭を上下させる。 「ん…、ん…、ぅんん…、ん…んふぅ」 苦しげに漏らす声も、たまに浮かべる苦悶の表情も、やわらかな唇を出たり入ったりする肉棒のまがまがしい姿も、すべてがぼくを興奮させた。 あまりの刺激に上半身をそらすと、下半身を突き上げる形になってしまい、ムスコはなつめの喉に届いてしまった。 「んぐっ…げほっ」 腕を伸ばし頭を跳ね上げて、吐き出すようにムスコを口から出すなつめ。 「あ、ご、ごめんっ。痛かった? だいじょおぶ?」 唾液と混じりあった透明の液体が、なつめの唇から垂れ下がっている。 「はぁ…はぁ…、はい、だいじょうぶ…です。ちょっと、びっくりしただけ、です…」 不意に訪れた休憩時間を利用して、ぼくは体をずりあげて起こすことにする。 「なつめ、体をどかして」 言うとおりにするなつめ。ぼくは後ろに腕を伸ばしてベッドの端につかまろうとした。と、何かスイッチのようなものに触れてしまう。 ウィーン…低く唸るような音を発してベッドがゆっくり回転を始めた。 「な…!?」 「わぁ…なんか、すごいです」 絶句したぼくの下方で、なつめが興味津々に目を輝かせて嬌声をあげる。 ベッドが1周したところで、ぼくは回転を止める。行為に集中したかった。 背中をキャビネットにもたれさせ、足を広げる。ムスコは天を指してそそり立ち、なつめの口唇での奉仕を待っている。 「さあ、続けて」 「はい」 返事をしながら、なつめは手首にしていた緑色のゴムで髪をまとめた。そうして、ぼくの両足の間におずおずと体を入れ、ムスコに手をかけた。 まっすぐに唇をムスコにあて、頭を下げていくなつめ。唇が徐々に広がり、あるところを通過すると、ほんの少しすぼまった。さらになつめの頭が下がる。 「んん…」 吐息を漏らしたところが限界のようだ。肉棒はまだ5㎝ほどが空気に触れている。根本まで口中に収めたい、しかし無理はしちゃいけない。 「ん…、んっ…、んん…、んっ…」 なつめはゆっくりとストロークし始めた。限界点に達すると声にならない声が漏れてくる。 「はぅっ、はっ…、はぅぅっ」 なつめの熱い口の中を往復する感触がムスコを刺激する。とくに亀頭の最下部、カリの部分を唇が往復するたび電流が走った。 ぼくは体を起こして右の腕を伸ばす。 「んぁ?」 なつめが上目遣いに見る。ぼくはなつめの胸をまさぐり、乳首を指ではさんだ。 「んっ! んぅんっ」 予期していない刺激になつめは体をびくっと震わせた。掌で柔らかな胸を揉んでいく。 「ぅんんっ、んぁぁ、んっ」 「動き、止めちゃだめだよ?」 ぼくはさらなる刺激を求める。なつめはストロークを再開させるが、ぼくには物足りない。 「つらかったら言ってね(って、言えないか…口をふさいでるんだもんね)、いや、右手を上げてね」 何を言われているのか理解できず、なつめの目から戸惑いがこぼれる。 「少し…、少しずつ、奥に入れていくよ」 ぼくは両手をなつめの頭にやり、そっと力を入れる。さっきより、なつめが限界としたポイントより1㎝ほど深く押し込む。なつめの唇が巻き込まれるのが見えた。 「んんっ!」 「あっ、だいじょぶ?」 なつめは目で「大丈夫です」と答える。ぼくはほっとしつつも満足を笑みで表し、なつめの頭を引き上げる。唇がカリに引っかかり、快感が走る。 「いいっ! 気持ちいいよ、なつめ」 亀頭が口からこぼれ出る前に、ぼくは腕に力を入れてなつめの頭を下げていく。さっきと同じ深度まできたとき、なつめの右手がぴくっと動く。 「へいき?」 なつめはくわえながらうなずく。その刹那、意思とは別に体が、いや快楽を追求する本能が動いた。 腰を突き上げる。 「ぅんっ!! んぐっ!」 なつめの苦悶は感じとれたが、もう我慢できなかった。 「ねぇ、なつめ、速くっ、もっと速く、もっと激しくして」 なつめは健気に、頭を一生懸命上下させる。しかし、その動きでは満足できなかった。 ぼくはなつめの頭をつかんだ腕にさらに力を入れ、 「こおっ! これくらい…、いや、もっと…、あっ、なつめっ、いいっ、いいよっ!」 「んん~っ、ぅん~っ、んっ! んっ、んっん~っ!」 なつめの頭が最下点に到達するタイミングを正確につかんで、ぼくの腰は勝手に突き上げる動きをする。右手を上げて苦しさを訴えるなつめだが、ぼくはそれを無視して左手でつかんでしまう。 右手でたばねた髪をつかんで激しく上下に動かし、腰のストロークをだんだんと大きくしていく。 なつめは右手でムスコを握り、なんとか指のぶん以上の侵入を防いでいる。細く白い指が唾液で濡れ、いやらしく光っている。 唐突に限界がきた。 「あ…っ、だ…めっ、もおっ、だめっ! いくっ! 出るっ! あぅぅっ、あっっ! 出すよっ!」 なつめの髪に広げた指がしっかりくい込み、反射的に逃げようとする動きを阻止する。腰がベッドから浮くほどムスコをなつめの口中深く突き入れる。ムスコが弾けた。 「んっっ! ん───っ! んっんっ…んっ…」 口内に大量の精液を勢いよくぶちまけられて、なつめの悲痛なうめきが部屋に響く。 「あぅぅっ、はぁぅぁぁ…、よ…かっ…たぁぁ」 なつめは力が抜けきってしまったみたいだった。 上目遣いするなつめの目の奥に戸惑いと、ちょっぴり抗議の色が混じっている。頭から手を離すと、なつめは両手をベッドについて、ゆっくりとムスコを口から引き抜いた。 なつめは口をきゅっと閉じている。少し頬がふくらみ、口の中にあるものの量が感じられる。ベッドにあひる座りをして目を閉じたなつめは、顔を少し持ち上げてそれを飲み下そうとする。 「なつめ…」 が、なつめは顔の前に両手をもっていき、白濁した液体をあふれさす。その流れはしばらく止まらなかった。 (いっぱい、出しちゃった…) 射精の余韻でぼんやりとしたぼくは、ローズピンクの唇と白い液体のコントラストにドキっとしながら、そんなことを思っていた。 なつめは涙のにじむ目を開けて、 「だめぇ…、飲、め、ないぃぃ」 はっと我に返ったぼくは、 「い、いいんだよっ、なつめ、そんな、飲むなんて…、いいんだよっ」 強い口調で言いながら、なつめを抱き上げていた。 「シャ、シャワー、シャワー浴びようっ」 なつめは掌の精液をこぼさないように、じっとそれを見ていた。 バスルームに駆け込む。なつめを降ろして大急ぎでシャワーからお湯を出し、まずなつめの手から精液を流した。それから、 「あ~ん、して」 白い糸をひいて粘ついている口内にまたドキっとするが、すぐにお湯ですすいでやる。 「なつめ…あの…」 ぼくが、ごめん、と言う前に、なつめが口をはさんだ。 「ごめんなさい…、あなたの…飲めなかった…」 「いいんだよっ、なつめ。そんなこと、いいんだよ。…また、ひどいことしちゃって、ごめんっ!」 なつめはふるふると顔を横に振り、 「ひどいなんて、思ってない。それより…あのぉ」 「なに?」 「気持ち、よかったですか?」 「うん…。その、すっごく、気持ちよかったよ」 それを聞いたなつめは、 「よかったぁ」 と無邪気な笑顔を見せた。うれしさが罪悪感を上まわる。ぼくはなつめの体をきつく抱きしめ、それからむさぼるように唇を吸った。さっきまで自分のムスコに奉仕してくれた唇がいとおしくてたまらなかった。 「ん…ぅぅん、あぁ…」 なつめの喜びが声になって漏れてくる。ぼくは舌を差し入れ、傷口を嘗めるように口内をまさぐった。 ぼくの背中にまわしたなつめの腕にも力が入っている。2人、夢中になってキスをした。しばらくキスを楽しんでから、ぼくは顔を離した。 「はあぁぁ…好き…」 と言ってなつめは、ぼくの胸に顔を埋めた。そのとき、ぼくのお腹がぐぅ~っと鳴った。 「プっ」 「あはは」 おでこをくっつけて笑った。その声はバスルームに幸せそうに反響した。 「お腹、すいちゃった」 「サンドイッチ、食べてください」 「うん。じゃあ、先に出てるね」 「はい」 ぼくはシャワーを自分の体に浴びせる。すると、なつめがムスコにそっと手を添え 「ここは…わたしが、洗ってあげる」 「えっ、い、いいよ」 拒否するが、なつめは強引にぼくの手からシャワーを奪い、そっとムスコにお湯をかけた。 「わたしのつばで汚しちゃったから…」 やさしくしごかれて残っていた汁がにじみ出て、なつめの指をまた汚した。なつめは指を口にくわえ、 「今度は…飲めるように、なつめ、頑張りますっ」 と、ザ・ワールドでのなつめのように元気に言った。ぼくは何を言っていいのかわからず、 「もう、きれいになったよ。ぼく、出るね。なつめも早く出ておいで。一緒に食べよう」 「はいっ!」 元気な返事がまた聞かれた バスタオルで体を拭き、それを腰に巻いてベッドに寝転がる。目を閉じると、不意にレイチェルの顔が浮かんできた。 「あっ!」 記憶がよみがえり、ぼくは思わず声を出していた。飛び起きてバスルームのほうを見る。シャワーの音に遮られ、声は届いていないようだった。 (そういえばあの日、レイチェルに口でしてもらったとき、「あかんっ。お初はあたしがいただくけど、お口くらいとっとかな、申し訳ないやん」って言われたんだっけ…) 「はぁ~ぁ」 (なんか、ぼくの『初めて』って晶良さんじゃない女性のほうが多い…) そこに、 「おまたせしましたぁ」 なんとなく自信にあふれた明るい声。バスタオル一枚の姿でなつめが出てきた。なつめはテーブルに投げ出した紙袋をかがんで取る。チラリとのぞいたお尻とその奥の暗がりにドキっとする。 ぼくはじっとしてられなくて立ち上がり、冷蔵庫からジュースを2本取り出して、テーブルの横にあるソファに腰をおろした。なつめがそっと寄り添うように座る。 「たくさん食べてください」 「うん。いただきまぁ~す」 ぼくは卵サンドを頬張った。 「おいっしい! おいしいよ、なつめ」 「よかったぁ。たくさんつくっちゃったから、どんどん食べてくださいね」 卵サンドを食べきらないうちに、ぼくはハムサンドに手を伸ばす。それを食べ終わると次はポテトサラダのサンドイッチ、それからまた卵サンドを平らげた。急いで食べたせいか、喉に詰まらせてしまう。 「げほっ、うぇ~」 ジュースを飲んでなんとか落ち着いた。なつめはそっと背中をさすってくれる。くすくすと笑いながら、 「慌てないでいいんですよ、サンドイッチは逃げませんから」 「うん。なつめの苦しさがちょっとわかったよ」 「えっ? なんのことですか」 「さっきの」 「いやっ」 真っ赤になって、手で顔を覆ってしまうなつめ。 「ふぅ~。お腹いっぱい。ごちそうさまっ」 ソファにもたれながら、ふくれたお腹を撫でる。なつめはようやく残ったサンドイッチに手をつけた。 「待っててくれたの?」 「はい。あんまりすごい勢いで食べるから、足りなくなるんじゃないかって、はらはらしてました」 (いいコだな、なつめって。きょうはできるだけ一緒にいてあげよう) それは問題の先送りでしかないのはわかっていたが、 (バレなければ…いいじゃないか、なあ) と囁く黒い自分の存在が大きくなっていくのを自覚してもいた。 「もう少し、残しとけばよかったかな」 「いえ、そんな。わたしはこれくらいでお腹いっぱいです」 「あとでケーキ食べにいこうよ。ぼく、バイトしてるから、ご馳走させて」 「カイトさん、やさしい…。なんか感激です! ありがとうございます! うれしい!」 心の底から喜んでいるのが伝わってくる。 「じゃあ、その前に…」 「えっ? ん、ぅんん…」 軽いキスをして、抱き上げ 「今度はぼくがなつめを気持ちよくしてあげる」 耳元でささやいて、ベッドになつめをそっと寝かせた。唇を吸いながらバスタオルをほどき、柔らかな胸に掌をあてた。 「ん…んふぅ…」 なつめの唇に舌を這わせ、先ほどの奉仕に対しての感謝の意を表す。くすぐったそうに、それでいて気持ちよさそうに、なつめは身をよじらせる。 「くぅ…ぅん、ぁぁあ…ぁん」 半開きの口に舌を差し込み、なつめの舌を絡め取る。胸に置いた手は次第に力を増していった。 「ん…、んふぅ…、あんっ!」 耳たぶを、首筋を執拗に愛撫していくと、なつめの喘ぎ声は早く、そして大きくなっていった。 「ぁっ、ぁぁん…、あんっ、くふぅ…、あっ!」 なつめの体にのしかかるようにして、胸への愛撫に唇と舌が加わる。固くしこってきた乳首を唾液まみれにしていく。 「どう? なつめ、気持ちいい?」 「は…ぃ、とて…も、あぁんっ! 気持、ち…いぃぃぃ、あぅっ」 体がびくっと震えると、口からこぼれ出る声も振動する。ぼくのすることに敏感に反応する。 右手を胸から脇腹と、ゆっくり滑らせていく。陰毛をかき分けるように進んだ指は、秘裂をなぞるようにして止まった。 「あっ」 なつめは右手の甲を口元にあてて、恥じらいが漏れるのを隠そうとする。 くいっと人差し指を折り曲げると、熱いぬめりの中に沈んだ。 「はぁぁ…、あぁぁん、あぁぁ」 顎を上げ、目を閉じて声を漏らすなつめ。無理はしないつもりだったが、そこは十分に潤っていて、ぼくの指を引きずり込もうとしているかにさえ思えた。 ぬぷっと指をさらに奥に進める。 「んあぁぁっ、くぅぅ…」 いままでより大きな声に驚き、ぼくはあわてて指を引き抜く。 「痛かった? ごめんね」 「ぃぇ…痛くはない、です」 「ん」 ぼくは体をずり下げながら、指の動きを再開させた。体をなつめの両足の間に入れ、おもむろにクリトリスを唇ではさみ、舌で嘗めあげた。 「ひぃゃぁんっ」 なつめは体をのけぞらし、聞いたことのない喘ぎ声をあげた。唇と舌の動きを大きく速くする。指を再び挿入し、出し入れさせる。 「あ──っ、あっ、あっ、あ──っ、んあ──っ、あっ!」 なつめが体をぶるっと震わせたのを感じ、ぼくは身を起こして素早くスキンを装着。覆いかぶさって一気になつめを貫いた。 「あ────っ」 なつめがしがみついてくる。 「んあぁっ、好きっ…、好きぃっ」 ぼくはじっとして動かず、なつめの息遣いが戻ってくるのを待った。 「だいじょぶ? 痛くない?」 ぼくの問いかけに、なつめはようやく目を開け、答える。 「ん、ん。…だい…じょお…ぶ」 その目から涙がこぼれ落ちる。それを見て、動くのをためらうぼくに気づいたなつめは、 「ほんと…に…、だいじょおぶ…です…から…、はぁっ、ぁぅぅ」 こらえるような声が漏れる。なつめは口で息をしながら、 「はっ、はぅっ、わた…し、しあわせ…。はぁ、はぁぁ」 「なつめ…」 「だっ…て、好きな…人に、カイトさんに…抱かれてるんだもん…、あっ、はぁうっ」 複雑な気持ちで押し黙るぼくに向かって、なつめは顔をゆがませながらもさらに言葉を続ける。 「はぁ、はぁぁ…、だから…お願…い。わたしで…、わたしで、気持ちよくなって…くださ…い」 「なつめの中ね、すごく、気持ちいいんだよ」 「うれしい…」 そうつぶやいて目を閉じたなつめのまぶたにキスし、ぼくはゆっくりと腰を動かし始めた。徐々に深度を増していき、それにつれてスピードも上げていく。 「うっ、ぅぐっ、ぐっ、あ…あぁっ、あぅぅっ」 突き入れるたび、なつめの吐息が短く漏れる。痛みをこらえているのだろう、なつめは目をぎゅっと閉じ、顔の横に置いた左手はシーツをきつく握りしめている。 これまでの経験、短時間のインタバルをおいただけの2度目の交合とあって、なかなか射精の欲求は高まってこない。スキンを装着しているせいもあった。 腰をまわすように動かして刺激を求める。なつめの喘ぎがかすれていく。 「はぅ、ぅぅぅ、あぅ、あぐっ、はぁぁ」 さらになつめの両足を肩に乗せる。挿入が一段と深くなる。 「あぁぁぁぁ、あんっ、あ──っ」 それまで自分の体を支えていた右手は自由が利くようになり、胸への愛撫へと役割を変えた。腰の動きは直線的なものにシフトし、ストロークはムスコがなつめから抜けそうになるくらい大きくする。 「あぐっ、ひっ、ひぃっ、ぅあっ、あっ!」 「い…き…そ…おぉ、なつめっ、なつめっ、あぁ、出るっ、なつめぇぇっ、いくっ!」 声をあげ、ぼくは果てた。多量の精液がスキンをいっぱいに満たした。 「よかった…、とっても、よかったよ、なつめ」 やさしく言ってキスをする。なつめの目から涙のしずくがこぼれ落ちていく。 「痛かった? ごめんね、だいじょぶ?」 「はい、大丈夫、です。痛みは、初めてのときよりは…少ないです」 まだ、なつめの中にいたかったが、それはかわいそうだ。名残を惜しんでムスコをもう一度ぐいっと奥まで突き入れる。 「んぐぅっ!」 と、うめき声をあげ、顔をゆがませるなつめを見下ろしながら、ぼくはムスコを引き抜いた。 「ぁ…ぁぁ…」 痛みから解放されてほっとしたのか、なつめの表情が緩む。なつめはぼくの頭に手をもっていき、引き下ろそうと力を入れる。 「どうしたいの?」 「あ、あの、キス」 ぼくは願いを聞き入れて唇を重ね、ねっとりと舌を絡ませた。 しばらくしてから、ぼくは体を起こして自分の後処理をする。スキンを外し1回転させて縛る。それからティッシュでムスコを拭った。 なつめはじっとして動かない。ふと見ると白いシーツに赤い点がにじんでいる。 (また出血させちゃった…) ぼくはなつめを抱き起こし、 「ごめんね。痛かったよね、ほんとうにごめんっ」 「カイトさん…」 「血が…血が出てる…。ひどいことしたんだって思うよ、ぼく」 なつめは息子を見る母親のような、包み込むような温かい微笑を浮かべ、 「大丈夫ですよ。女は月に1度、血を出してるんですから」 「だって…」 血を見てすっかりビビってしまったぼくは、泣きそうになりながらなつめを見つめる。 「痛そうで、かわいそうだから、わたしのこと、もう抱かないって言われるほうが、ずっとつらい」 「でも、だって…」 「女なら、だれもが通らなくちゃいけない痛みなんですよ。その痛みを経験させてくれたのが、あなたでよかった」 ホテルを出ると、なつめが 「あのぉ、手、つないじゃだめ、ですか」 と恥ずかしそうに小声で聞いてくる。 「だめじゃないよ」 そう言って、ぼくは指を絡ませるようにして、なつめと手をつないだ。 (そういえば、晶良さん、汗かいちゃうからって言って、あんまり手をつながせてくれないなぁ) 一瞬、そんな考えが浮かんで、ぼくは顔をぶんぶんと横に振る。それを不思議そうになつめが見つめていた。 「あっ、そうだっ、ケーキ」 ごまかすように早口で話しかける。なつめは 「本屋さん、行きましょう」 「情報、仕入れるんだ」 「そうです。せっかくカイトさんと食べられるんだもん。おいしいケーキ、食べたいです」 ほんとうに喜んでいるのがわかる。心からそう言っているのがわかる。 (なつめって、ほんとにかわいいや。晶良さんのことは愛してるけど、なつめのことも好きになりそう) また顔を振る。 「あのひとのこと、考えてるんですか」 俯いたなつめがひとり言のようにつぶやく。 「えっ!? い、いや、そ、そんなこと、ない、よ」 「うそ」 「うそなんかついてないって。なつめのこと、好きかな…って、ちょっと思った」 ぼくの言葉に返事はなかった。なつめは俯いたまま顔を上げない。 「? どおしたの?」 心配して、顔をのぞきこむようにして聞く。なつめは涙ぐんでいる。 「うれしい…」 消え入りそうな声で漏らすなつめ。 「な、泣かないでっ、お、お願い」 慌てるぼくに、なつめは泣き笑いの顔を向け 「はい!」 と元気に答えた。PCを思い出させる細くつぶった目に浮かんだしずくに、夏の太陽が輝いていた。 ケーキ屋さんを出ると、なつめはいつにも増して丁寧にお辞儀をして帰っていった。 (できるだけ一緒にいよう、と思ったけど、これでよかったんだよね) まだ太陽は高い。家の近くの駅に着き電車から降りても、全然涼しくなってこない。ねっとりと不快な空気がまとわりついてくる。 「なんて…暑いんだ…」 永遠に明るいままなんじゃないかと思えてくる空を見上げ、うらめしそうにつぶやく。 「ただいまぁ」 家に戻ったぼくは無言で風呂場に向かいシャワーを浴びた。汗とともに、この嫌な空気も、そして罪悪感も洗い流せたら、どんなにいいだろうと思いながら。 夕飯はご飯一膳だけで箸を置く。どうしたの? と心配する声に、 「アルバイトの疲れ、かな。それに、きょうの暑さでバテた…。きょうはもう寝る。おやすみなさい」 母親の顔をまともに見られず、一方的に言って自分の部屋に戻った。 ベッドに身を投げて、目を右腕でふさぐ。深いタメ息を一つついて、ぼくは考える。 (いいのかな、このままで) もうひとりのぼくがささやく。 (バレやしないって。大丈夫。それに、なつめの体、すごく良かっただろ?) 実際、なつめとの性交は十二分の満足が得られるものだった。初めて口の中に出した快感、晶良とは違う柔らかな体、締めつけてくるあそこ…。痛いのをこらえる顔にも興奮させられた。 ぼくは自問自答を繰り返す。 (でも…、ぼくが、どうにかしたら、これって…終わるのかな?) 別のぼくが言う。 (終わるかもしれないし、終わらないかもしれない。…それはだれにもわからない) さらに自分に聞く。 (でも、何かを始めるためには、終わらせなきゃいけないことって、あるよね。…終わりにできるかな…これ) 別の自分が答える。 (終わりがこないことなんて、ない。ただ、いろんな終わり方があるだけ) 結論はもちろん出なかった。ぼくはいつの間にか眠っていた。
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テスタメント 作品名:Vermillion -Bind Of Blood- 用語分類:種族分類 Vermillion -Bind Of Blood-に登場する用語。 《柩の娘》によって生み出される縛血者殲滅用の吸血鬼。 詳細形容 戦闘能力基本戦闘能力 杭 身体能力 不可視 元ネタ 関連項目 関連タグ リンク 詳細 形容 縛血者より優れた身体構造縛血者よりも攻撃力や射程に富んだ爪、牙を持つ。 杭撃ちにより遠距離戦闘が可能。 縛血者より鋭い爪を持ち…… 縛血者より長い牙を生やし…… 縛血者を狩りたてる杭を持つ…… 上半身が発達した化け物上半身が主に両腕が発達している。 頭部の大半は耳まで裂けた口が占める。 異様に肥大化した上半身の筋肉。特に類人猿を思わせる両腕の巨大さは目を引いた。 その上に乗る頭部は、躰全体から見ればむしろ小さい。だがしかし、その大部分を耳まで 裂けた口蓋が占めていた。 戦闘能力 基本戦闘能力 縛血者の上位互換の身体能力 不可視(縛血者以外) 杭 能力無効化 杭 全長四メートル以上の大質量杭を撃つ質量は目測で100キロ以上を超え、直撃すれば縛血者でも一撃必殺になる。 全長にして4メートルに近い。そんな柱と見まがう太く長大な棒杭。質量は優に100キ ロに届くだろう。 有機的な杭裁定者の杭はカルシウムでできている。 質量に反して日本刀でも切断ができるほど脆い。 どこか有機的な印象を与える、微妙なねじくれや白骨を思わせる表面の質 感。どうみても只の棒杭ではない。 身体能力 素材となった縛血者の力を強化した者元の地力が高いほど強力な裁定者になる。 今まで対峙した中で漠然と感じてきたのは、怪物の力は一定ではないということだ。 恐らくその格差は、かつて縛血者だった時点で持っていた力の反映。 不可視 縛血者以外には見えない街中で堂々と縛血者たちを襲っても騒がれることがない。 女が上げる悲鳴は、突如として抜刀した目前の狂人——俺に対してのみの反応だ。裁定者 の姿を、その目その耳は全く認識していない。これもまた、奴らの持つ能力の一種なの か。 元ネタ テスタメント(英:Testament) キリスト教における聖なる契約の意。転じて聖書を指す。 関連項目 《柩の娘》 裁定者を生み出す道具。 縛血者 裁定者の素材となる種族。 狂人塔楼 あまりにも強固な妄念を持っていた縛血者が裁定者になっても残した賜力。 関連タグ Vermillion_-Bind_Of_Blood- 杭 生体兵器 用語 用語(種族) 能力無効 隠形 リンク Wikipedia テスタメント
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MUSIC BLOOD MUSIC BLOOD 2022年4月~22年6月 共通事項 基本の放送時間…金曜23 00~23 30 絨毯の上にカラー表記 備考 COMPLETE 固定スポンサー ユニバーサルミュージック アサヒビール(60秒・2022年5月) HONDA(2022年5月) 2022年4月1日(23 40~24 10) 1’00”…KIRIN(キリンビール) 0’30”…ユニバーサルミュージック、みずほ銀行、HONDA、ドラエグ 2022年4月8日(23 45~24 15) 0’30”…KIRIN(キリンビール)、ANIPLEX、HONDA、マイナポイント、SUNTORY、ユニバーサルミュージック 2022年4月15日 1’00”…KIRIN(キリンビール) 0’30”…ANIPLEX、FUJIFILM、ユニバーサルミュージック、HONDA 2022年4月22日 1’00”…SOMPO 0’30”…SUNTORY、ユニバーサルミュージック、HONDA、マイナポイント 2022年4月29日(23 15~23 45) 1’00”…SUNTORY 0’30”…ユニバーサルミュージック、UQ mobile(KDDI)、KIRIN(キリンビール)、ANIPLEX 2022年5月6日(23 15~23 45) 1’00”…アサヒビール 0’30”…ユニバーサルミュージック、NTT docomo、HONDA、積水ハウス(白帯) 2022年5月13日 1’00”…アサヒビール 0’30”…ユニバーサルミュージック、HONDA、マイナポイント、KIRIN(キリンビール) 2022年5月20日(23 30~24 00) 1’00”…アサヒビール 0’30”…O-net、SUNTORY、ユニバーサルミュージック、HONDA 2022年5月27日 1’00”…アサヒビール 0’30”…ユニバーサルミュージック、HONDA、マイナポイント、KIRIN(キリンビール) 2022年6月3日(23 05~23 35) 0’30”…ユニバーサルミュージック、HONDA、ライフネット生命、KURE、アサヒビール、ANIPLEX(PT) 2022年6月10日 0’30”…HONDA、ACECOOK、アサヒビール、ユニバーサルミュージック、SUNTORY、LION(PT) 2022年6月17日 0’30”…アサヒビール、Panasonic、ACECOOK、SUNTORY、ユニバーサルミュージック、HONDA 2022年6月24日 0’30”…MSD製薬、KURE、アサヒビール、HONDA、ユニバーサルミュージック、KIRIN(キリンビール)
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imageプラグインエラー ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Stormblood Berserker.jpg) 戦争が神である者にとって、血は聖なるものである。 Blood is holy to those whose god is War. 基本セット2012 モダンマスターズ2015 【M TG Wiki】 名前
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斎藤 大地 16歳 ♂ O型 4/06 高校一年生 話を考えていくうちに、すごく優しくなっちゃったよ 適度にだけど。あとすごくバカ。ありえねぇバカ。 よく高校入れたねってぐらいにね。 能力は具現化からの質量化。 簡単に言うとイメージしたものが出てくる。 或る意味最強の能力だぜ。 クロス団員 月白 小雪 16歳 ♀ A型 11/22 高校一年生 この子は成績優秀でとてもいい子です。 あとぶっちゃけると大地が好きです。王道な子(ププッ 「小雪」は節句。だって11/22って小雪だもん。 能力は氷系の何か。決まってない クロス団員 広末 昇汰 15歳 ♂ A型 10/18 高校一年生 とってもいい子だけど。大地の親友だけど。 能力は不明 岬をつれてZへ入る 斎藤 岬 15歳 ♀ B型 3/13 高校一年生 病弱です。可愛いです。 大地の双子の妹です。 小さいです。能力はありません。 斎藤 千夜 24歳 ♀ O型 1/03 大人。 大地の姉。その恐るべき支配力から、 家に親がいないので斎藤家の主君となっていた。 主に大地に対して。能力なし。 緋乃 渚 14歳 ♂ AB型 2/17 中学三年生 妹とおそろいのペンダントはいつ何時でもはずさない。 しかし決して禁断の恋が芽生えているわけではない(笑 能力は幻術。 Z団員になる。 緋乃 凪那 13歳 ♀ AB型 5/18 中学一年生 兄とおそろいのペンダントはいつ何時でもはずさない。 しかし決して禁断の恋が芽生えているわけではない(笑 能力は火、炎。 クロス団に入る。 武田 誠人 15歳 ♂ B型 6/01 中学三年生 なんか今回のようになる前に生命の秘密に気づいてる家計に生まれた。 らしい。 で、先祖代々幻術使いの家計となっている。いちお能力者扱い。 能力は幻術。 ちなみにZへの入団は断った。 クロス団員 Z ?歳 ♂ ?型 ?/? ? もちろんZの主。 幻術者を集めるのはただの趣味。 美学らしい。 梓鬼 ?歳 ♂ ?型 ?/? ? ??? Z団員 蒼 ?歳 ♀ ?/? ? 最初の刺客。 Z団員 吉井 聖美 14歳 ♀ 7/01 能力は爆破。あとは会えてのノーコメント。 だって。。。 Z団員 桐田 宗二朗 32歳 ♂ ?/? 大人。 クロス団長。 Zやあの方の思惑に立ち向かうため クロス団として戦う。 己の道を行く大地に手を焼く。ストレスを溜める。 あの方 生命の本当の持ち主。 地球の大気圏にはじかれ、生命はそのまま置いていってしまったため、 やっとこさみつけて、人間に入ってしまった生命を回収している。 自殺をさせるという方法で。 抵抗してきた人間には殺すための力を与える。 それが能力者。
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ゲーム名 Matt Hazard Blood Bath and Beyond 対応フォーマット PS3 ジャンル アクション プレイヤー人数 オフライン 1-2人 販売価格 ¥1,500 配信開始日 2010/02/18 対応周辺機器 振動機能対応 映像出力 NTSC, 480p, 720p 音声出力 Linear PCM 2ch, Linear PCM 5.1ch, Dolby Digital 5.1ch, Dolby Digital Interactive Encoding 販売元 D3 PUBLISHER 開発元 Vicious Cycle まとめサイト 関連スレor板 備考/PSN等 トロフィー, オンラインランキング対応 体験版 無し
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ネコアルク 出現方法 アーケードモードで全キャラクリアをする キャラクター選択時 カーソルをアルクェイドに合わせてからスタートボタンを押すとネコアルクに変化 ネコアルク・カオス 出現方法 ネコアルクでサバイバルモードを22勝以上(ネコアルクまで撃破)を6回繰返し,ネコアルクのボイスを全て出現させた後,ネコアルクでアーケードモードをクリアする キャラクター選択時 カーソルをネロ・カオスに合わせてスタートボタンを押すとネコアルク・カオスに変化 MELTY BLOOD Topページへ
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(投稿者:エルス) Dレーションという、スナックバーのような物体がこの世にはあるのだが、俺はまず一口食って、なんでこんなものがあるのか疑問を感じざるおえなかった。 神が今でも食い物を創造し続けているというのなら、俺はその神の頭を疑い、軍のお偉い方がこの物体を必要だと信じているのなら、俺はそのお偉方の頭を疑うだろう。 それほど、Dレーションは不味かった。石のように硬いし、柔らかくしようにも無駄に耐熱性を重視したので火を使わなければ溶けそうもなく、 運のないことに隠密作戦中であるので火は使用禁止ときた。 アルファの連中はDレーションの頭文字、すなわちDとRで言葉遊びを始め、その優秀賞に輝いたのはパーシーの「Devil Rod」だった。 他にも「Death Ration」だの「Dead man Rest in peace」だとか、色々と候補があったりしたが。 「知ってるか兄弟。このレーションはな、非常時以外に誰も食わねえようにわざと『茹でたジャガイモよりマシな味』にしてあるんだ。 だからどこの部隊に行っても、こいつだけは絶対に山積みされてるんだ。そこが最前線じゃない限りな」 にやにやと笑みを浮かべながらDレーションを食い続けているパーシーが酷い話だとでも言いたげな声音で言った。 一つ辺り600キロカロリーも摂取できるこのDレーションは、アルファじゃ珍しくもない主食であるという。 作戦行動中はよほどの事がない限り正体を明かしてはならないという部隊の特性上、贅沢な食事を楽しむ幸福が味わえるのは数少ない休暇と、訓練が休みの日だけだ。 だから作戦行動中の食事は『食う』のではなく、必要なエネルギーを『摂取』していると思い込むことが大事だと、陽気な狙撃兵は続けた。 俺は思わず顔をしかめて、こんなもの食っていられるかと言おうと思ったが、パーシーがそっと、 「言っとくが、こいつは最低一個食わなきゃならねえんだ。こいつも命令でね、戦うためのエネルギー補給ってやつさ」 「なんだって? ふざけてるな。こんな神に見放されたような食い物を食うのを強制させられてるってのか? こん畜生め」 「俺だって食いたかねえよ。あーあ、Cレーションが懐かしいぜ……」 不評を言いながらもDレーションを食べることのできるパーシーやアルファの連中はまだ良い。 俺はこのカロリーの塊を、正直に言って、食うことを諦めて捨ててしまいたかった。こんなところでエテルネ人としての美食意識が目覚めたとは思えないが、 ともかく、これは食えたもんじゃないと思った。 だが食わなければならないのだ。他に食うものはないし、なにより、これを食えば600キロカロリーも摂取できるので、 戦闘を乗り越えるためのエネルギーとして、これを食うということは必要な行為なのだ。 「……はぁ」 溜息しか出てこない自分が少し情けない。以前の俺なら不平不満をぶつくさと呟いていただろうに、今の俺は溜息一つで言いなりになるのだ。 だがしかたない。言われたことに従順で、黙って行動するのが大人というものだ。命令は聞くもの。そう思いながら、Dレーションを齧ってみるが、 やはりとうぜんのごとく、神に見放されたような食い物の固さと、味わう楽しみを廃絶した微妙な味しかしないのだった。 二時間ほどの休憩が終わると、パーシーを含む狙撃班が移動を始め、それから三十分ほどしてから、突撃班こと残ったアルファの連中が腰を上げた。 作戦は簡単なものだ。建設途中に廃棄された三階建ての商業ビルを包囲し、突撃班が裏口から突入。トラップの存在に注意しながら進み、一部屋ずつ制圧していく。 メードが現れた場合は即座に後退、多数の銃器により飽和攻撃を行い、殲滅する。また、逃走部隊は狙撃班に任せ、必要であるならば追撃し、これを撃破する。 こうしておさらいして分かることがいくつかあることに俺は気づいていた。 まず、アルファはメードを特別扱いしない。したとしても、それは戦術上、強力な歩兵としてであって、それ以上を求めない。 そして敵を過信しない。どんな相手であっても装備は念入りに点検し、作戦を立て、トラップの存在を頭に叩き込んでいる。 堅実で地味だが、成功確率の高い方法を選ぶ、まさに精鋭だった。 その精鋭たちが今、裏口に集まっている。全員がバラクラバかバンダナで顔を隠し、身元が分からないようにしている。 声は出さない。出す場合も必要最低限にだ。今は先頭に立つマッキンリーとその後ろのキングフィールドの声が、最後尾の俺に微かに聞こえてくる程度だ。 「準備は?」 「OKです、大尉」 「よし、ドアを開けろ、軍曹。紳士的に行こうじゃないか」 「了解。紳士的にお邪魔させてもらいましょう」 キングフィールドが壁から離れ、ベルトに差し込んだ棒状のもの、GREMを一本取り出し、それを銃口に装着する。 側面が白で塗られたクリップを装填し、ドア目掛けて銃口を向ける。 「スリー……トゥ……ワン……撃て」 マッキンリーの命令にキングフィールドが頷き、引金を引いた。 夜の街にM3半自動小銃の発砲音が響き、そして間をおかず、くぐもった爆発音が轟き、ドアが吹き飛んだ。 一秒ほど間をおいてマッキンリーとその後ろに立つ隊員が煙の晴れきらない裏口から建物内に突入し、 「―――クリア。進め、角に注意しろ。キング、マークス、シリルは私について来い。他は右の制圧。やれ」 俺はマークスマンの後ろにつき、左側にあるドアの前で立ち止まった。 おかしな建物だと、作戦前に見取り図を見て思ったが、本当におかしな建物だった。 裏口から入ってみると、建物内を左右に分けるように仕切りがあり、それぞれ左右に一つずつ小部屋がある。 その先にL字型の角があり、その角を曲がって5メートルほどの直線の後、急な階段。 二階は仕切りはなく、中央に大きめの会議室のような部屋がある。その部屋を囲むようにして、廊下があり、向かい側には三階へと通じる階段がある。 そして最上階の三階は何も無く、遮蔽物と言えば鉄筋コンクリート製の柱が幾つかある程度だ。ちなみに廃墟であるから、全階に渡り窓ガラスというものはない。 設計者が頭のおかしい奴だったのだろうと思いつつ、壁に背をぴったりとつけたマッキンリーを見た。 マッキンリーはすでにドアのノブに手をかけており、反対側にいるキングフィールドは目で俺になにかを伝えようとしていた。 なにを伝えたいのか分からず、数秒を無駄にしたが、マークスマンが俺をドアの真ん前に立たせたので、ようやくそれを理解した。 トレンチガンはその使い方によって、連続射撃の出来る凶悪な化け物に変貌する。狭所戦闘では短機関銃並みの脅威であり、時には短機関銃以上の制圧力を発揮するのだ。 マッキンリーが三本指をたて、一秒刻みで指を折る。そして彼女が拳を作り、親指をドアに向けて突き上げた瞬間に、彼女はノブを回した。 ドアが少し開き、彼女がノブから手を話したのを見て、俺はドアを蹴り開け、部屋の中にいた作業服の男二人を手早く射殺した。 「クリア。二つ仕留めた」 「よくやった。次は階段だ。行くぞ」 「了解、大尉」 音を立てずに低速で移動しながら、俺は二発のショットシェルを装填し、高鳴り出した鼓動を抑えるために深呼吸をした。 発砲時の反動と硝煙の臭い。視界に飛び散った赤と白。碌なものが入っていない筈の胃が反応しかけたが、なんとか込み上げてきたそれを飲み下す。 こんなところで弱さを見せてたまるものか。まだ先は長いのだ。出だしで胃の中身を晒す事はないだろう。集中力を高め、冷静になれ。そうすれば、死ぬことはない。 角に差しかかり、先頭のマッキンリーがじりじりと、少しずつ死角をクリアにしていく。こういう技術を見て覚えろというのだから、酷いものだと思う。 「クリア。階段まで突っ切るぞ」 「了解、大尉」 三人分の了解の言葉を背に、マッキンリーは言葉そのままに階段までの一本道を突っ切り、トラップの有無を確認すると、ハンドシグナルを出した。 俺とマッキンリーが右側、キングフィールドとマークスマンが左側、という配置になる。ゆっくりと、足音に注意して階段を上がり、待ち伏せに注意する。 耳を研ぎ澄まし、感覚を鋭敏化する。アドレナリンが分泌され、鼓動が高鳴る。だが、そんな身体状況でも、冷静でいなければならない。 「フリーズ」 マッキンリーが静かに告げた。後方の警戒をしていた俺とマークスマンは両足を地につけて停止し、次の指示を待つ。 「前方、ワイヤー確認。シリル、ボルトカッター。キング、そのまま動くなよ」 「了解、大尉。シリル、さっさと動け」 「もう動いてますよ軍曹」 コートの内側から撲殺用のハサミと表現しても誰もが頷くようなゴツイ外見をしたボルトカッターを取り出し、注意して疑って初めて見えるようになるほど細いワイヤーを切断する。 このワイヤーを切断した瞬間、なにか別のトラップが発動して俺が蜂の巣になるなんて危険性を、切断してから思いついたもんだから、何だか後味が悪かった。 「クリア。進むぞ」 「了解」 再び階段を昇り、壁伝いに移動する。そして、曲がり角で停止する。 マッキンリーが角を覗き込み、俺とキングフィールドを指差した後、向かい側の壁を二度指差した。 向かい側へ素早く移動しろ……ということらしい。キングフィールドが走り出し、向かい側で安全確保した後、床を蹴る。 滑り込むようにしてキングフィールドの後ろにつき、次の指示を待つ。 「妙だな」 「……なにがだよ」 「右の制圧に当たった部隊は、こっちの階段を昇ってくる筈なんだ。だが、まだ来ない」 「……ってことは?」 「制圧する筈が制圧されたのかもしれん」 「不味いな、そりゃ」 「ああ、ゲロ不味の状況だ。背中を任せたぞ、警戒を怠るな」 「了解、軍曹」 背中あわせで全周囲を警戒する。360度、そのうちの半分を他人に預けるのは少し気が引けたが、そうするしかなかった。 信頼することが大事だとアイツは言っていたが、確かに味方を信頼する分、こういった無駄な感情を抱くこともないだろう。 ほどなくして、マッキンリーが決断し、 「クリア。お前たち二人は会議室に突入しろ。私とマークスマンはお前たちの背中を預かる」 「了解、大尉。俺に続け、ガキ」 「続きます、軍曹」 キングフィールドがまたあの棒状のライフルグレネードを装着し、スリーカウントでドアを吹き飛ばす。 今度は安全確認の前に、ベルトにビニールテープでピンを固定した催涙弾をあるだけ投げ込む。 ガスが広がり切るまで少し間があるので、その間にガスマスクを被り、ガスが入口から漏れ出した瞬間、突入する。 少しずつ死角をクリアにしていく途中、発砲音と共にやってきた弾丸が、俺の髪を数本食い千切った。 あまりに突然のことだったので、俺は少しの間ぼーっと突っ立っていたが、ハッとして柱の後ろに隠れる。 「畜生……」 こんなところで死ぬわけにはいかないってのに、どうしてこう上手くいかないんだ。 自分で自分を殴りたくなる衝動がふつふつと込み上がってくる。だが、そんな馬鹿をやっている暇はない。 銃声は四方の壁に反射して響いているから、音で敵の位置を察知するのは不可能だ。なら、目視するしかない。 ドアはマークスマンかマッキンリーが締めた。一時退却ってのは無理だ。そうすると、選択妓はほぼ一択しかない。 「軍曹! 援護射撃頼む! 俺が突っ込んで奴らを黙らせる!」 「了解だクソガキ! だがM3じゃ限界がある! そっちでなんとかしろ!」 「なんとかしてやるさ」 思わず口元を緩めてそう言い残し、俺は敵に向かって突撃する。 安全なんて糞喰らえと、何時も決死の覚悟で駆け抜けていた黒旗時代を思い出す。それほど時間は経っていないが、感覚的にもう三年は昔の事のように思える。 火の塊のような弾丸が頬を引き裂き、生温かい体液が流れ出す。前からも後ろからも銃声が聞こえる中、何時死ぬかも分からない恐怖で顔が引きつった。 「ひぃっ!?」 「……そこか」 一人の馬鹿が奇声を上げた。その建物が建築途中で破棄された時、一緒に捨てられたと思われる角材の後ろに、作業着姿で短機関銃を乱射している男がいた。 どうやらヴォ連製のガスマスクに黒いコートとトレンチガンという、なるほど並べて見ると悪者にしか見えない恰好の俺を見てビビったのだろう。もしくは、戦闘慣れしていない素人か。 どちらにしても、俺には関係ない。考えられる必要最低限の動きで短機関銃の射線から逃れ、弾切れになった瞬間、男に跳びかかり、至近距離でトレンチガンを顔面に押しつけ、引金を引いた。 「ぐげっ」 「ちっ……」 瞬間、舞い上がった血煙が左のレンズを赤く染めた。片目を潰されたのと同じ状況ってことだ。 思わず舌打ちをした。左右の違いはあるが、なんでこんなところでアイツの真似ごとをしなきゃらなないんだろうか。 ガスマスクを脱ぎ去りたい衝動を抑え、視界に入った二人の敵に襲いかかる。射線を避け、至近距離まで接近し、引金を引く。 吹き出た血飛沫を被り、手がべたついた。大切に使ってきたこのコートにも、大量の血が染み込んでしまった。 『もう少し考えて行動したらどうなんですか?』 アイツがよくそう言っていたのを思い出す。まったく、その通りだ。自己中心的で独り善がりで、おまけに失策とくれば世界も笑う大バカ者の出来あがりだ。 コートが無茶苦茶に汚れて使い物にならなくなっただけで、胸が痛むようじゃ、この先いつ死ぬか分かったもんじゃない。 「……馬鹿だな、俺」 前々から自覚はしていたが、根本的な問題だから直そうと思っても直せない。エルフィファーレに馬鹿馬鹿言われるのも、しょうがなかったのかもしれない。 どうしてか分からないが、戦闘中は自分のやったことに後悔しっぱなしのような気がする。アドレナリンの作用……ではないだろう。 冷静さを失うのが普通なのに段々と冷静に、そして、自分のことなのに第三者視点から見るようになる。これはきっと、俺自身が心の深層で、戦いたくないとか思ってるからなんだろう。 だから現実逃避の一手段として自分の視点ではなく、第三者の視点で戦い、それを評価し、判定する。我ながら、よくできたもんだと思う。 「クリア!」 三つの死体を背に、俺は言った。部屋を満たしていた催涙ガスはどこかにある換気扇の穴とドアの隙間から出ていってしまったのか、もうほとんど機能していない。 M3にクリップを装填し、キングフィールドが立ち上がった。そのまま左右をキョロキョロと確認しながら歩いてくる。それを見ながら、俺はガスマスクを脱いだ。 「まったく、エテルネ人にしちゃ戦い上手だな」 「舐めんじゃねえよ、アルトメリアン。やるときゃやるのがエテルネ流だ。特に若い内はな」 「ははっ、そうかよ」 ガスマスクを脱ぎ、キングフィールドが高揚感でにやけている顔を晒した。 俺の顔もそうなっているのだろう。俺の場合は恐怖で顔が引きつって笑ってるように見えるだけだが、キングフィールドはきっとコンバットハイになっているからだ。 いつもは単純で愚純な考えしかできないのに、どういうわけか、戦闘中はいつもより複雑で、どこか専門家然とした考え方になる俺からしたら、羨ましい限りだ。 「その意気でドアも開けて欲しいもんだな……」 キングフィールドがやれやれといったふうに両手を振る。 俺の突撃行為にほとほとあきれたと言ったところだろう。普通の人間は、あんな無茶しないのだ。 互いに拳をぶつけ合い、再度制圧を続行しようとした矢先、背後から声がした。 「ドアならもう開いているぞ?」 「な……っ!」 瞬間、俺はトレンチガンを構えて振り返った。だが、遅かった。 振り返る動作が終わる前に、左の脇腹にハンマーを叩きつけられたかのような衝撃と、肋骨が砕ける音を感じた。 蹴られたと分かったのは、背中から壁に叩きつけられた後だった。 「か、はっ……!」 「小僧、引っ込んでいろ」 「……クリスティア」 キングフィールドの目が見開かれ、口元の笑みも消え去る。代わりに、殺人鬼と形容しても間違いはないだろう、憤怒の形相が浮かび上がる。 そしてその目線の先に居たのは……一人の少女だ。身体は小さく、まだ幼い。だが、自信満々といった顔ときっちりと着こなしている軍服がその幼さを打ち消している。 床をのたうち回ることしかできない俺は、身体をどうにかして仰向けにしようと、足掻いていた。内臓がやられたのか、動くたびに激痛が襲ってくる。 芋虫のような俺など見向きもせず、コツ、コツと軍靴を鳴らしながら、少女がキングフィールドに歩み寄っていく。 キングフィールドはホルスターからリボルバーを抜き、銃口を少女に向け、指を引金にかける。 「なぜ裏切ったのか、今ここで聞かせてもらおうか。裏切り者」 「………ルイ・ガルヴァーニのことを覚えているか? 軍曹」 「ああ覚えているとも。第一海兵師団第二大隊……お前の戦友だった男だ」 「そいつのことを、お前と私、そして第一海兵師団の奴ら以外に、誰が覚えている?」 淡々としているクリスティアに対し、キングフィールドは明らかに迷っていた。銃口はぶれていないが、顔に汗が浮き出ている。 俺はと言えばやっとの思いで仰向けになる事に成功し、なんとか身体を治そうとするが、コアエネルギーの使い方が下手なので、上手くいかず四苦八苦していた。 「兵を損耗品にしか扱わない祖国に私は絶望した……私は違う。私は決して見捨てない。私を信じ、信じた戦友らのために、私は私自身に忠を尽くす」 「……だから海兵隊も裏切ったのか」 「違うな……死人がどうして裏切れるというのだ?」 「頭に蛆でも湧いちまったのか? 死人は喋らないだろ? 立っていられないだろ? その言葉は死人に対して失礼だってのに、どうして気づけないんだ?」 「そう、死人はしゃべらないし、立ってられない……紙の上では私は死んだことになっている。海兵隊の私はあの砂漠で死んだのだ。 ここにいるのはV4師団の幹部、烈将クリスティアだ──遠慮は要らんぞ。お前はお前の正義と忠義の下に、撃鉄を下ろせばいいのだ」 無骨な斧を構えて彼女が言った。こいつの言うことは正論だ。だが、キングフィールドが引金を引く気配はない。 「撃て……軍曹、そいつを撃てば、終わるんだ」 「はて、私は引っ込んでいろと言ったのだが。聞こえなかったのか小僧? 発言する権利はお前にないんだぞ?」 「くっ……」 殺気に満ちた目を気圧され、俺は口を閉じた。思い出したのはマッキンリーのあの目だ。こいつの目は、マッキンリーによく似ていた。 人を見る目じゃない。地面に落ちている塵を見る目だ。お前など簡単に踏み潰せる。八つ裂きに出来ると無言で語る、殺人鬼の目だ。 「……それで良い。さて、キングフィールド。どうリアクションをとってくれるのかな?」 「ざけんなよ糞ったれのチビガキ……お前が連邦を敵に回すなら、お前は過去のお前も敵に回したんだ。それだけじゃないぞ、お前は戦死したすべての海兵隊員を敵に回した。 何故なら、俺たちは骨になっても海兵隊だからだ!」 「―――ははっ、敵か。そうか、敵か……死人が敵に回るか……それであいつらが戻ってくるなら、どれほどよかったか」 ギリッと歯を軋ませ、クリスティアが足を踏み出した。 手に持つ斧をキングフィールドに突き付け、殺気で乾燥しきった目で彼を睨みつける。 その目の中にはどんな感情が隠されているのか、それすら分からない。だが、殺意があるというのは明確だ。 俺はさっきから四苦八苦しながらコアエネルギーを操作して、少しずつ自分の怪我を治しているが、まだまだ上手くいきそうにない。 治療系の特殊能力ではなく、自然治癒力を増幅させるだけの、基礎的な技術だったが、それすら俺には難しいのだ。 「……動くな、リトル・ビッチ」 「お前に私が撃てるのか、軍曹?」 「動くなと言ってるだろう!」 シリンダーが回転し、撃鉄が降りる。 銃声が部屋中に響き渡ったが、クリスティアの足元を削っただけだ。ただの威嚇射撃でしかない。 「……何故私を撃たない? 貴様のいう海兵隊というのは、元仲間だったという理由だけで連邦の明確な敵を見逃すほどの腑抜けなのか?」 発砲にも臆せずに、小さな殺人鬼は一歩一歩、キングフィールドに歩み寄っていく。 このままではきっと、キングフィールドが殺される。懐のマッチモデルを取り出そうと腕を伸ばすが、身体の内側を焼かれるような痛みがそれを拒絶する。 大事な時に限ってアドレナリンはその役目を発揮してくれない。痛みを忘れて、ボロボロでも良いから、立ち上がってこいつと戦わなければいけないのに……身体は惨めにも動かない。 自分の身体だというのに、どうしてこんなにも役に立たないのだろうと、ぶつけようのない怒りが湧き上がってくる。ぶつけるとしたら、自分の身体に他ならないだろう。 スキルもなにもない、丈夫でも力が強いわけでもない。ただただ凡庸で、顔立ちが良いだけの顔を乗っけただけの身体―――。 「──―貴様こそ海兵隊だろうが! キングフィールド!」 クリスティアが吠えた。幼さを残した少女の声は、まるで金管楽器のように澄んでいるが、そこに孕むのは純粋な怒りと殺意だ。 俺もそこまで単純になれば良いのだろうか? 復讐心と執念で身体を無理矢理にでも引きずって、銃を撃って人殺しをすれば良いのだろうか? ……いや、それは違う。それは俺じゃない。ミシェルが望んだことでもない。俺が望む事でもない。なにより、エルフィファーレが喜ばない。 「海兵隊だからこそだ! 死人だろうが、気違いだろうが、仲間は必ず連れ帰る! お前は今でも海兵隊なんだ! 一度海兵隊に入ったら、死んでも消えても、最後まで海兵隊だ! 裏切ったって構わない、敵前逃亡しても構わない。どんな馬鹿野郎でも、決して置き去りになんかしない! それが俺たち、アルトメリア連邦海兵隊だ! 分かったか!」 「……三年前のあの日にお前がいたら」 「分かったのか! 分からなかったのか! どっちか言ったらどうなんだ!」 「──―いや、もう遅いな。……生憎、弱者の罵詈雑言など聞く耳持たん。私は私だ。海兵隊と言う鎖を、勝手に巻きつけないでもらいたいなあ!」 肉食獣の如く、クリスティアがキングフィールドに襲いかかった。振り上げられた斧の軌跡が白く染まり、血の赤がそれを彩る。 左肩に重い斬撃をもらったキングフィールドは、それでも逃げずに立ち向かう。片手でリボルバーを突き付け、その引金を引く。 9.65ミリの弾丸が少女の右肩を貫き、血の花を咲かせたが、猛獣はそれだけで止まるものではない。 斧を手放し、左手一本でキングフィールドの襟首を掴み、そのまま投げ飛ばす。放物線を描いて飛んでいったキングフィールドは床に叩きつけられ、動かなくなった。 「キングフィールド!」 「黙っていろと言ったはずだ。小僧!!」 もうお前には興味がないといった目で、クリスティアは俺を見下ろす。 反射的にその目を睨みつけるが、そうしたところで俺が戦えるようになるわけじゃない。 だったらどうするんだと自問自答し、考えついたのは決死の足止め。つまり、会話だった。我ながら馬鹿だと評価するしかない。 殺人鬼相手に会話だって? 馬鹿らしくて失笑されるのがオチだ。 そう思いつつも、俺は口を開いていた。 「……仲間だったんじゃないのか? それをあんなにも簡単に打ちのめして、楽しいのか?」 「では逆に聞くが、私が戦闘を楽しんでいるように見えるかね?」 「十分見えるぜ、まるで獲物に齧り付く獣だ」 「そうか、傍目にはそう見えるか。しかし、存外、私も甘いな」 「うんうん、確かに甘いねぇ」 「……地元の協力者は足止めにもならないのか」 クリスティアが吐き捨てるように言うと、ドアを蹴破って入室したマッキンリーは破顔した。 手に持っていた短機関銃を放り投げ、ベルトのシーフからマット・ブラックに塗られたマチェットナイフを抜き放つ。 ジャングルで進むべき道を切り開くために使われるはずの大柄なナイフが、今は死神の鎌に見えた。 だがよく見れば、クラウ・マッキンリーの今の形相といい、身に纏う殺気といい、まさに死神だ。 その死神を目の前にしても、クリスティアは斧を片手に笑っていた。 直感で悟った。こいつら二人とも、正気じゃない。人間の根本の部分で、どこかがイカれちまったんだと……。 「クラウ・マッキンリー中尉……いや、今は大尉だったか? 貴様は私が甘いと言うが……どれほど甘いのだ?」 「私には楽しめないくらいにスウィートだねぇ……まるで練乳を一気飲みしたくらいに」 「それは流石の私も遠慮したくなるほどの甘さだな。だが、実際の私はそこまで甘くはないぞ?」 「過小評価してるって言いたいのかなぁ? そうだとしたら、ちょっと……ううん、すんごくイラッとくるなぁ。ぶっ殺したくなるくらいに」 「やれるものならやってみるといい。マッキンリー」 「あっそ。じゃあ遠慮なく殺してやるよ!!」 獲物に跳びかかる猫のように、マッキンリーがクリスティアに向かって駆けだした。人間がメードと対等に戦おうとするなんて無謀だと思ったが、その思い込みもすぐに消えた。 振るわれるマチェットナイフは壁の黒ずんだ灰色と同化し、その軌跡ははっきりとしない。そして滑らかに繰り出される斬撃一つ一つが、致命傷を与えるための一撃でもあった。 首とつくあらゆる箇所、そしてあらゆる関節を両断せんと、黒い刃が疾駆する。それを銀色の刃を持つ無骨な斧が防ぎ、金属音を響かせ、火花を散らす。 「はは、いいぞ……私を殺したいのか! その手で……この私を殺したいのか!!」 「ははははは!! お互い、狂ってるねぇ! ああ、そうさ! 殺してやる! 殺してやるとも!!」 斬り合いなんて言葉は似合わない。ここで行われているのは、純粋な殺し合いだった。 一歩間違えば相手が死んでいようとなかろうとお構いなしに身体をバラバラにするような、暴力的で狂った戦いだ。 だが、考えても見れば戦いというのは何時だって暴力的で狂っている。この二人は……それに適応してしまったのだろう。 「ふふっ……そういえば、何とかは死ななければ直らないと、どこかの誰かがいったな?」 「知ったことじゃないね。ああ! お前みたいなヤツは最高だ! 喰い殺してやりたい! お前を滅茶苦茶にしてやりたい! 血と肉の塊にしてやる! そして喰らってやる! お前のすべてを! そうすれば満たされる、この私が!!」 「そうだなっ! そんなことは知ったことではない!」 二人は笑っていた。目は血走り、瞳孔が散大し、犬歯を剥き出しにして笑っていた。 狂っているとしか言いようがなかった。耳障りな金属音が耳を貫き、床を蹴るブーツの音がリズムを刻む。 そこで俺は、知らぬ間に子供のように震えている自分に気づいた。目の前で繰り広げられる戦いが、そんなに怖かったのか? いや、そんなことはない。そんなこと……あってはならない。この程度で怖がってどうする。馬鹿か、俺は。 「っ、ぁ……!」 激痛を無視してマッチモデルを懐から引きずり出す。セーフティを外し、狙いを付ける。 互いに攻めを譲らない熾烈な殺し合いを続ける二人の内、一人を狙うというのは、負傷者に対するいじめだなと思いつつ、引金を引くことのできる瞬間を待った。 涙で視界が霞み、痛みで腕が震える。止めておけばいいのに、どうして俺は余計な事ばかりするのだろうか。そんなどうしようもない考えが、ふと浮かび、そして沈んだ。 クリスティアの動きが止まった。思い切って引金を引き、45口径のマイルドな反動が身体を突きぬけ、同時に神経を完膚なきまでにぶちのめす激痛が火花を散らした。 「ぐあ、ぁっ……! っ……!」 情けない悲鳴を上げまいと歯を食い縛る。口の中に錆びた鉄の味が広がり、目から流れ出す涙が止まらない。 治れ治れと念じて治るのなら医療メードはいらないのだ。畜生、糞喰らえってんだ。スキル持ちじゃないからとか、そんな理由で妥協して堪るか。 涙で霞んで良く見えない目を見開き、完全に動きを止めた二人を睨みつける。二人からすればさぞ滑稽だろうが、俺は死ぬ気でやっているんだ。笑ったら、殺してやる。 「この小僧の所為で興が醒めたな」 「そうかぁ。んじゃ、逃げてよ、クリスティア」 「貴様は馬鹿か? 今、ここで、私を仕留める気ではなかったのか?」 「なに……より善き友、強き敵、ってさ。私は狂人だ。けどね、同時に根っからの第一海兵師団の海兵なのさ」 「……お互い、甘いのか馬鹿なのか、分からんところだな」 「同感。ああ、私が殺すまで死なないでね、マセガキ」 「そのままそっくり返してやる。この死神め……それと、小僧」 にやりと笑ったクリスティアが、俺を見た。 俺はその目を見返した。悔しいが、それ以外何も出来ない。 「良い根性だ。称賛に値する。まあ、根性だけの馬鹿だがな」 ふざけるなと叫びたかった。だが、俺の体力はそこまで残っていない。 三階から迷いもなく飛び降りたクリスティアと、回収班と思われるトラックのエンジン音を聞くことしか、俺には出来なかった。 「大丈夫か?」 何時の間にか、マークスマンが俺を見下ろしていた。俺はなんとか笑って見せて、首を横に振った。 キングフィールドはどうなったのか気になったので、首と目だけを動かして探すと、マッキンリーがあの巨体を担ぐところだった。 やっぱり人間離れした女は怖いな……なんて、どうでもいいことを思いながら、途切れがちになった意識の中、これからの予定を考える。 ……もう、覚えるべき事は覚えきったような気がした。これ以上、知識を得たところでなにも始まらない気もした。 トラックの荷台に運ばれたという記憶を最後に、俺は眠った。疲れたのだ。これ以上無いだろう恐怖と、激痛の所為で……。 関連項目 シリル クラウ・マッキンリー クリスティア マークスマン 〈BACK〉 〈NEXT〉